2025年ノーベル物理学賞
Oct 19, 2025今年度のノーベル物理学賞は、量子コンピューターの基礎となる技術を立証したアメリカの3氏が受賞しました。
ジョン・クラーク名誉教授(米カリフォルニア大学バークリー校)
ミシェル・H・デヴォレ名誉教授(米イェール大学)
ジョン・M・マルティニス名誉教授(米カリフォルニア大学サンタバーバラ校)
受賞理由は「電気回路における巨視的量子トンネル効果とエネルギー量子化の発見」というもの。言葉だけ聞くと難しそうですね。
私たちの体や、車など身の回りの物体はニュートン力学という理論に従って動きます。でも、電子や光(光子と呼ばれる光の粒)は違います。
これらの運動は量子力学(りょうしりきがく)という理論に従います。今回のノーベル賞は、その量子力学に関する基礎研究に贈られました。
この量子力学、ニュートン力学的な世界観に慣れ親しんでいる私たちからすると、奇妙に見えます。物体の位置は、「その場所にある」のではなく「その場所にある確率(存在確率)」で示されます。
そして「物体が動く」かわりに、その存在確率がまるで「波のように伝わっていく」のです。(実際は絶対値の2乗が確率密度になる「波動関数」(はどうかんすう)と呼ばれる複素関数が伝わっていきます。)
確率の波と聞いても、海の波や水たまりの波紋と違って、ただの数学的な概念に思えて現実味がないかもしれません。しかし、この「確率の波」が肝なのです。ここでは、詳しくお話できませんが、量子力学の特徴的な例をいくつか載せておきますね。
■トンネル効果
量子の存在確率を表す波(オレンジ色の線)が壁を通り抜けています。ニュートン力学では、ボールを壁に向かって投げても跳ね返るだけですが、量子力学では壁の向こう側に通り抜ける可能性があります。もちろん、跳ね返る場合もあります。

■調和振動子
高校物理でもよく見る、ばねに繋がれたおもりの運動です。ニュートン力学(左の図)では単純に行ったり来たりする運動ですが、量子力学(右の図)では存在確率が変化しながら波のように往復する様子が分かります。ちなみに、ピンクと緑の線が波動関数Ψ(プサイ)の実部と虚部です。この波動関数が「シュレーディンガー方程式」という波動方程式に従って動いていきます。
