
江戸時代のナノテクノロジー
May 02, 2025みなさんは「ナノテクノロジー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
私たちの人間の身長は、メートル(またはセンチメートル)という単位で測ることが多いですが、1000分の1毎に
メートル→ミリメートル→マイクロメートル→ナノメートル
と単位が変わります。つまり「ナノメートル」というのは10億分の1メートルということになります。とても小さいですね。ちなみに原子や分子の大きさは、おおよそ0.1ナノメートルです。
そして、原子・分子と同じぐらいの大きさの物質を使って素材やデバイスを作る技術をナノテクノロジーといいます。
そう聞くと、最先端の技術という響きがあるかもしれませんね。でも実は100年以上前、江戸時代~明治初頭に、このナノテクノロジーが活用されていた事例があります。
薩摩切子(さつまきりこ)という伝統工芸品をご存じでしょうか?
薩摩切子は、薩摩藩(現在の鹿児島県)が幕末から明治初頭にかけて生産したガラス細工・カットグラス(切子)のことです。薩摩ガラス・薩摩ビードロとも呼ばれます。
薩摩切子は、第10代薩摩藩主 島津 斉興(しまづ なりおき)が江戸のガラス職人を呼び寄せて薬瓶を製造させたことから始まったとされています。
当時の物で現存するのは200点程度と大変貴重な品ですが、現在は鹿児島県の伝統工芸品として復刻生産されていますので、ネット通販などで私たちも買うことができます。
特に注目していただきたいのが、鮮やかな「赤」の色です。この赤は、赤色の顔料をガラスに溶かしたものではありません。実はこれ、純金をガラスに溶かした色なのです。
金は「黄金」って言うぐらいだから黄色じゃないの?
と思うかもしれませんね。ではその黄色は何の色でしょうか?
私たちが普段見ている白色の光は光の三原色(赤・緑・青)が混ざったものです。そして金は三原色のうち青の光を吸収し、残りの緑と赤の光を反射します。つまり、金は緑と赤が混ざって黄色に見えているのです。(下の図を参照してください)
ところが、金を数10ナノメートルまで細かくすると、金の中にある電子が表面で波打つように振動を始めます。
この現象を(局在型)表面プラズモン共鳴(または局在プラズモン共鳴)といいます。この現象が起きるときのエネルギーが、ちょうど緑色の波長の光のエネルギーと一致するのです。
そうすると、外から入ってきた光(白色光)のうち、青と緑の光が吸収され、残った赤が私たちの目に見えるようになるのです。これが薩摩切子の鮮やかな赤色の正体です。
江戸時代にこんなナノテクノロジーを駆使した工芸品が生まれていたとは驚きですね。